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labo-12【本能寺の変探求委員会


 愛宕百韻

全文

 

本能寺の変が起こる数日前、変の首謀者である明智光秀は如何なる理由によってか山城国愛宕山を参詣し、親交のある者との連歌会を張行した。「愛宕百韻」と呼ばれるこの時の句は、本能寺の変直前に詠まれたものだけに光秀の心境を伺い知ることができるのではないかと思われる。そこで、こちらでは百韻の全句を掲載し、そこに詠み込まれたであろう光秀の本心を考えてみたいと思う。

【連 衆】この連歌会に参加した者達

光秀 明智光秀          15句 
光慶 明智十兵衛光慶・光秀の長子  1句 
行澄 東六郎兵衛行澄・光秀の家臣  1句 
紹巴 里村紹巴、連歌師      18句 
昌叱 里村紹巴門の連歌師     16句 
心前 里村紹巴門の連歌師     15句 
行祐 愛宕西之坊威徳院住職    11句 
宥源 愛宕上之坊大善院住職    11句 
兼如 猪名代家の連歌師      12句 

愛宕百韻 於:愛宕山威徳院                  
時:天正十年五月二十四日              
(『信長公記』には二十八日とあるが誤り。) 

「連歌のルール解説」

  


〔初表〕

001  ときは今天が下しる五月哉     光秀

002  水上まさる庭の夏山        行祐

003  花落つる池の流れをせきとめて   紹巴

004  風に霞を吹き送るくれ       宥源

005  春も猶鐘のひびきや冴えぬらん   昌叱

006  かたしく袖は有明の霜       心前

007  うらがれになりぬる草の枕して   兼如

008  聞きなれにたる野辺の松虫     行澄


〔初裏〕

009  秋は只涼しき方に行きかへり    行祐

010  尾上の朝け夕ぐれの空       光秀

011  立ちつづく松の梢やふかからん   宥源

012  波のまがひの入海の里       紹巴

013  漕ぎかへる蜑の小舟の跡遠み    心前

014  隔たりぬるも友千鳥啼く      昌叱

015  しばし只嵐の音もしづまりて    兼如

016  ただよふ雲はいづちなるらん    行祐

017  月は秋秋はもなかの夜はの月    光秀

018  それとばかりの声ほのかなり    宥源

019  たたく戸の答へ程ふる袖の露    紹巴

020  我よりさきにたれちぎるらん    心前

021  いとけなきけはひならぬは妬まれて 昌叱

022  といひかくいひそむくくるしさ   兼如


〔二表〕

  023  度々の化の情はなにかせん     行祐

024  たのみがたきは猶後の親      紹巴

025  泊瀬路やおもはぬ方にいざなわれ  心前

026  深く尋ぬる山ほととぎす      光秀

027  谷の戸に草の庵をしめ置きて    宥源

028  薪も水も絶えやらぬ陰       昌叱

029  松が枝の朽ちそひにたる岩伝い   兼如

030  あらためかこふ奥の古寺      心前

031  春日野やあたりも広き道にして   紹巴

032  うらめづらしき衣手の月      行祐

033  葛のはのみだるる露や玉ならん   光秀

034  たわわになびくいと萩の色     紹巴

035  秋風もしらぬ夕やぬる胡蝶     昌叱

036  みぎりも深く霧をこめたる     兼如


〔二裏〕

037  呉竹の泡雪ながら片よりて     紹巴

038  岩ねをひたす波の薄氷       昌叱

039  鴛鴨や下りゐて羽をかはすらん   心前

040  みだれふしたる菖蒲菅原      光秀

041  山風の吹きそふ音はたえやらで   紹巴

042  とぢはてにたる住ゐ寂しも     宥源

043  とふ人もくれぬるままに立ちかへり 兼如

044  心のうちに合ふやうらなひ     紹巴

045  はかなきも頼みかけたる夢語り   昌叱

046  おもひに永き夜は明石がた     光秀

047  舟は只月にぞ浮かぶ波の上     宥源

048  所々にちる柳陰          心前

049  秋の色を花の春迄移しきて     光秀

050  山は水無瀬の霞たつくれ      昌叱


〔三表〕

051  下解くる雪の雫の音すなり     心前

052  猶も折りたく柴の屋の内      兼如

053  しほれしを重ね侘びたる小夜衣   紹巴

054  おもひなれたる妻もへだつる    光秀

055  浅からぬ文の数々よみぬらし    行祐

056  とけるも法は聞きうるにこそ    昌叱

057  賢きは時を待ちつつ出づる世に   兼如

058  心ありけり釣のいとなみ      光秀

059  行く行くも浜辺づたいひの霧晴れて 宥源

060  一筋白し月の川水         紹巴

061  紅葉ばを分くる龍田の峰颪     昌叱

062  夕さびしき小雄鹿の声       心前

063  里遠き庵も哀に住み馴れて     紹巴

064  捨てしうき身もほだしこそあれ   行祐


〔三裏〕

065  みどり子の生い立つ末を思ひやり  心前

066  猶永かれの命ならずや       昌叱

067  契り只かけつつ酌める盃に     宥源

068  わかれてこそはあふ    紹巴

069  旅なるをけふはあすはの神もしれ  光秀

070  ひとりながむる浅茅生の月     兼如

071  爰かしこ流るる水の冷やかに    行祐

072  秋の螢やくれいそぐらん      心前

073  急雨の跡よりも猶霧降りて     紹巴

074  露はらひつつ人のかへるさ     宥源

075  宿とする木陰も花の散り尽くし   昌叱

076  山より山にうつる鶯        紹巴

077  朝霞薄きがうへに重なりて     光秀


〔名残表〕

078  出でぬれど波風かはるとまり船   兼如

079  めぐる時雨の遠き浦々       昌叱

080  むら蘆の葉隠れ寒き入日影     心前

081  たちさわぎては鴫の羽がき     光秀

082  行く人もあらぬ田の面の秋過ぎて  紹巴

083  かたぶくままの笘茨の露      宥源

084  月みつつうちもやあかす麻衣    昌叱

085  寝もせぬ袖のよはの休らい     行祐

086  しづまらば更けてこんとの契りにて 光秀

087  あまたの門を中の通ひ路      兼如

088  埋みつる竹はかけ樋の水の音    紹巴

089  石間の苔はいづくなるらん     心前

090  みず垣は千代も経ぬべきとばかりに 行祐

091  翁さびたる袖の白木綿       昌叱


〔名残裏〕

092  明くる迄霜よの神楽さやかにて   兼如

093  とりどりにしもうたふ声添ふ    紹巴

094  はるばると里の前田の植ゑわたし  宥源

095  縄手の行衛ただちとはしれ     光秀

096  いさむればいさむるままの馬の上  昌叱

097  うちみえつつもつるる伴ひ     行祐

098  色も香も酔をすすむる花の本    心前

099  国々は猶のどかなるころ      光慶


参考資料/島津忠夫校注【日本古典集成】33「連歌集」新潮社刊

資料室第12研究室
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